この記事の要点
- アプリの呼び名は「BTCs mining」→「CORE mining」→「Free Airdrop」と段階的に変わったが、招待ドメインやカード名など「奥の層」は名称変更後も長く残った
- Satoshi App(旧COREマイニング)の右上にある「白書」(英語UIではWhitepaper)を開くと、表示されるのは技術文書ではなく、『三体Ⅱ 黒暗森林』序章とほぼ一致する寓話だった
- 寓話は作中人物名が「Satoshi Nakamoto」に差し替えられている。2022年2月8日のFacebook投稿版は結びが原典と同じだった一方、白書版の結びは、確認できる範囲では同年8月までに「crypto world」の誕生へと書き換えられていた
- 白書の最後まで読み進めると、Bitcoinのジェネシスアドレスとして知られる文字列が表示され、連打するとSatoshi Cardが得られた
- ハッシュカードの階層(Beetle〜Satoshi)は、寓話の登場要素と対応するように読める
- 運営が『三体』からの借用を認めた公式説明は確認できていない。Antminerや2008年同年説などは仮説段階で、断定しない
はじめに:白書のはずが、小説だった
筆者は2022年にBTCs.loveへ参加し、同じ年にCore DAOのテストネット期からも関わってきました。当時のSatoshi Appには、どこか中国語圏の気配が漂っていました。アプリは中国国内向けとグローバル向けの2系統があり、リファラルリンクも2種類(グローバル版は1-5の数字から始まる5桁でしたが、中国版は0から始まる4桁だったと記憶しています)ありました。
その中で気になっていたのが、アプリ内の「白書」です。中国語や日本語のUIでは「白書」、英語UIではWhitepaperと表示されます。Bitcoinの世界で白書といえば、2008年10月31日にSatoshi Nakamotoが公開した論文のことです。ところが、このアプリの白書を開くと、蟻と蜘蛛と巨大な存在が出てくる物語が延々と続きます。
この物語に筆者が長く引っかかっていた理由は二つあります。一つは、内容があまりにもSatoshi Nakamoto本人とBitcoin黎明期を彷彿とさせたことです。創始者らしき巨大な存在が静かに現れて去り、その後を無数の小さな存在が支え続けるという筋立ては、単なる装飾にしては出来すぎていました。もう一つは、2022年当時から、中国語圏を中心とする参加・運用の痕跡が、アプリの導線やコミュニティに複数見られました。中国国内向けとグローバル向けの2系統のアプリ、2種類のリファラルリンクなど、随所に中国語圏の設計が見え隠れしていました。
この違和感を言葉にできないまま数年が経ち、本稿の執筆にあたって改めて文章を検索・照合したところ、劉慈欣『三体Ⅱ 黒暗森林』の序章の英訳と、文章の大半が一致することがわかりました。つまり、最初から出典を見抜いていたわけではなく、長年の違和感を手がかりに、今回あらためて裏を取った結果です。本稿は「確認できたこと」と「仮説にとどまること」を分けて記録します。
1. Satoshi App/BTCsからCOREへのリブランディング
寓話の由来をたどる前に、アプリ自体の呼び名がどう変わってきたかを整理しておきます。以下では「BTCs mining」「CORE mining」「Satoshi App」「Free Airdrop」という名称が入り混じって出てきますが、これらは同じアプリの異なる時期の呼び名です。
筆者の観察に基づく、UI変遷の対応表は次の通りです。
| 層 | BTCs期の痕跡 | CORE mining期(2022年秋) | Free Airdrop期(12/19以降) |
|---|---|---|---|
| 画面ロゴ | BTCs mining | CORE mining | Free Airdrop |
| ティッカー説明 | BTCs(〜7月) | CORE | CORE+各プロジェクト |
| 招待ドメイン | btcs.love/btcs.fan | 同左 | 同左(12/20記事でも) |
| 技術ドメイン | — | rpc.test.btcs.network | (Mainnet後はcore系へ移行) |
| カード/ノード名 | Beetle〜Satoshi | 同左+Testnet Validator同名 | カード機能は残存しうる |
| 終了/転換 | — | 12/12マイニング終了 | 12/19新APP・エアドロップ |
終了日の記録について
マイニング終了日については、後年のSatoshi App公式ページは「2022年12月12日」を開始・終了期間として表示している。一方、筆者が当時の画面・案内として保存した記録には「2022年12月15日 JST 11:53、全量採掘完了」とある。
本稿では、前者を公称の終了日、後者をアプリ内残量が尽きた実運用上の完了時刻として区別して記す。両者の差は実際のブロックチェーンの運用と同様に年単位のスパンでマイニングが行われたため、アップデートやトラブルなどでダウンタイムが発生しており、その期間のマイニング(ブロック生成)が遅延したためと判断できます。
この表から読み取れるのは、リブランディングが一度に起きたのではなく、層ごとに時差を伴って進んだという点です。画面ロゴは早い段階で「CORE mining」に変わった一方、ティッカーの説明が「CORE」に切り替わったのは7月以降でした。招待ドメイン(btcs.love/btcs.fan)は、アプリ名がCORE miningになった後も、さらにFree Airdrop期に入ってからも変わらず使われ続けています。技術面でも、CORE miningの名を掲げながら、テストネットの接続先はrpc.test.btcs.networkという「btcs」のドメインのままでした。
ハッシュカードの名称(Beetle、Ant、Spider、Rock、Formation、Witness、Satoshi)も、CORE mining期に引き継がれただけでなく、同じ名称がTestnet Validatorの名前としても使われていました。Free Airdrop期に入ってからカード機能自体がどう扱われたかは筆者も追い切れていませんが、名称や機能の一部は残存していた可能性があります。
表面の名称(BTCs→CORE→Free Airdrop)は段階的に変わっていく一方、招待ドメインやカード名という「奥の層」は長く残り続けました。本稿で扱う寓話・白書・ジェネシスアドレスの仕掛けは、この「奥の層」、つまりBTCs期からCORE mining期にかけて作り込まれた部分に属します。名称が変わっても、この仕掛け自体が変更されたという記録は確認できていません。
2. 白書の正体:アプリ内で読ませる寓話
マイニング画面の右上にある【白書】をタップすると、長文が表示されます。スマホ画面を何度もスクロールして、最後まで読み進める構造です。この長文が、本稿で扱う寓話の実体です。

なお、同じ系統の文章は、2022年2月8日にBTCs関連のFacebookアカウント「Btcs Mining Satoshi」にも投稿されていました。以下の2枚は、このFacebook投稿と、2022年8月17日時点でのアプリ内白書のスクリーンショットです。いずれも、著作権に配慮して本文の大半をボカシ加工しています。両者の前後関係については、次節で確認できる範囲を示します。
3. 原文対照:何が同じで、何が違うのか
比較の材料は次の3つです。
- 劉慈欣『三体Ⅱ 黒暗森林』(2008年、中国語)の序章。英訳はJoel Martinsen訳、Tor Books、2015年
- 2022年2月8日、BTCs関連のFacebookアカウント「Btcs Mining Satoshi」が投稿した寓話(英語)
- Satoshi App内の白書(筆者のガイドに掲載した画像、および2022年8月に保存したスクリーンショット)
| 項目 | 『黒暗森林』序章 | 寓話(Facebook投稿版) |
|---|---|---|
| 発表 | 2008年(中国語)、2015年(英訳) | 2022年2月8日、英語のFacebook投稿 |
| 場面の中心人物 | 羅輯(Luo Ji) | Satoshi Nakamoto |
| 挿入された語 | なし | 「BTCs」「Bitcoin Satoshi BTCs」など |
| 冒頭の標語 | なし | 「Don't act like a dead beetle, be the last witness」 |
| 蜘蛛の一節 | あり | 逐語的に一致 |
| 結び | 蟻と蜘蛛だけが「宇宙文明の公理」の誕生を目撃したという結び | 原典と同じ結び |
特に一致が明確なのは、破壊された巣を蜘蛛が何度でも張り直す一節です。英訳の "Ten thousand times the web could be destroyed" から続く文が、寓話側でも同じ形で現れます。登場する語彙(ant、spider、formation、dead beetleなど)も、序章の象徴構造そのものです。一方、冒頭の標語は筆者の照合では原典に見当たらず、寓話側で足された要素と考えられます。
結びだけが書き換えられている
白書版で最も目を引くのは結びです。筆者のガイド画像に写っている白書の最終行は、次のとおりです。
"...were the sole witnesses to the birth of crypto world."
| 版 | 蟻と蜘蛛が目撃するもの |
|---|---|
| 原典(英訳) | 宇宙文明の公理の誕生 |
| Facebook投稿版(2022年2月8日) | 宇宙文明の公理の誕生(原典と同じ) |
| アプリ内白書版(2022年8月17日時点で確認) | crypto world(暗号世界)の誕生 |
原典の「宇宙文明の公理」を「暗号世界」に差し替えた編集は、文章を偶然似せたのではなく、Bitcoinの物語として翻案する意図があったことを示します。確認できる範囲では、2022年2月8日のFacebook投稿は原典と同じ結びでしたが、2022年8月17日に保存されたとみられるアプリ内白書のスクリーンショットでは、すでに「crypto world」に書き換えられていました。したがって、書き換えは早くともFacebook投稿後、遅くとも8月17日までに行われたことになります。ただし、白書が当初から「crypto world」版だった可能性(つまりFacebook投稿のほうが例外的に原典へ忠実だった可能性)も排除できず、同じ人物が編集したのかも確認できていません。
原典は著作権で保護されているため、本稿では全文を転載せず、要所のみを引用しています。全文の対照は、書籍の該当箇所とご自身で照らして確認してください。
4. 白書の最終行の下にあった「Genesisアドレス」
白書の最終行の直下には、次の文字列が表示されていました。
1A1zP1eP5QGefi2DMPTfTL5SLmv7DivfNa
これは、一般に「Bitcoinのジェネシスアドレス」として知られる文字列です。厳密には、一般に「Bitcoinのジェネシスアドレス」と呼ばれる文字列です。厳密には、ジェネシスブロックのcoinbase出力はP2PK(公開鍵への直接支払い)であり、通常のP2PKHアドレス表記とは区別があります。それでもブロックエクスプローラーやBitcoinコミュニティでは、この文字列がジェネシスブロックと関連付けて広く表示・参照されています。
この文字列は飾りではありませんでした。筆者のガイドには、次の手順でSatoshi Cardを入手できると記録しています。
- マイニング画面右上の【白書】をタップする
- 表示された白書を最後までスクロールする
- 末尾のテキストリンクを、Satoshi Cardが得られるまでタップ連打する
ガイド画像の矢印は、白書の最終行と、この文字列の付近を指しています。
Satoshi Cardは、5名で交換すると120kのハッシュが得られるカードです。初期ハッシュが100kですから、1枚で倍以上になります。マイニングを始めたばかりのユーザーにとって、非常に重要なカードでした。
体験設計としての読み方(筆者の解釈)
ここからは事実ではなく、筆者の解釈です。並べると、この仕掛けは次のような流れになっています。
| 白書内の要素 | 読み取れる意味 |
|---|---|
| 「白書」という名称 | Bitcoinの創世を告げた白書(2008年10月31日)を連想させる名前 |
| 蟻・蜘蛛・岩の構造物 | 『黒暗森林』序章の物語装置 |
| Satoshi Nakamoto | 原典の人物名をBitcoin創始者へ置換 |
| 「birth of crypto world」 | 宇宙文明の公理の誕生を、暗号世界の誕生へ変換 |
| ジェネシスアドレスの連打 | Bitcoin創世記への到達を模した仕掛け |
| Satoshi Card | 創始者を頂点に置く報酬・収集の仕組み |
読み進めた先でBitcoinの創世記に到達し、報酬を得る。白書は、読み物であると同時に、ユーザーが自分の手で創世記に触れるための入口として作られていたように見えます。
5. ハッシュカードの階層と寓話の対応
アプリのハッシュカードは、次の7種類でした。下の表のハッシュは、筆者のガイドに記録した「5名交換・同種揃い」の場合の値です。
| カード | 5名交換で得るハッシュ | 寓話の要素との対応(解釈) |
|---|---|---|
| Beetle | 1.25k | 死んだ甲虫 |
| Ant | 2.50k | 蟻 |
| Spider | 3.75k | 蜘蛛 |
| Rock | 6.00k | 岩壁 |
| Formation | 7.50k | 岩の構造物 |
| Witness | 35.00k | 目撃者 |
| Satoshi | 120k | 立ち去る巨大な存在(Satoshi Nakamoto) |
下位の死んだ甲虫から頂点のSatoshiまで、寓話の登場要素が階層として並んでいます。冒頭の標語「死んだ甲虫のように振る舞うな、最後の目撃者であれ」は、この階層構造と組み合わさって機能します。
もう一つの設計は、カードの配布間隔です。筆者のガイドには、配布のスパンがBTCの半減期をモデルにしていると記録しています。最初の32枚は毎日1枚、次の16枚は2日に1枚、次の8枚は4日に1枚と、間隔が倍々に延びていきます。物語だけでなく、報酬の設計にもBitcoinの仕組みが持ち込まれていました。
6. 中国語圏コミュニティの観察(筆者の一次体験)
ここは検索で裏付けた事実ではなく、筆者が2022年にBTCs.loveへ参加して見たものの記録です。
- 中国語コミュニティは多数乱立しており、その1つ1つが数千人規模でした
- TelegramやDiscordのグループでは、使われる文字は繁体字ではなく簡体字でした
- リファラルコードが1桁のアーリー参加者が多く見られました
- 香港やマカオだけでなく、上海、北京、内陸部など、中国の都市の住人が作ったコミュニティに見えました
- 筆者を含む日本のユーザー層にとっては、「中国BTCs @CorePublicChain 」を名乗るアカウントの発信が当時の最大の情報源でした
- 日本語UIには「発起」「贈力カード」「鉱山チャット」など、中国語由来と思われる用語が使われていました
規模については、筆者の当時のガイドに、カード交換用のTelegramグループが20万人規模(定員超過で新規参加不可)、別の交換グループが15万人規模と記録しています。これらは中国語圏に限らない全体の規模で、筆者が独自に検証した数字ではありません。アプリはAndroid専用で、開発者は匿名でした。
この寓話が『三体』由来だと指摘する議論が当時あったかどうかは、確認できていません。大規模な参加者がいたことと、出典に気づかれたかどうかは別の問題です。
7. 先例:Bitcoin・Web3と『三体』はすでに結びついていた
Bitcoinやブロックチェーンの文脈で『三体』を参照する試みは、Satoshi Appより前から存在します。
| 先例 | 内容 |
|---|---|
| BitmainのAIチップ部門「Sophon」(2018年) | 『三体』の「智子(Sophon)」に由来する命名と報じられている |
| Paradigm「Ethereum is a Dark Forest」(2020年8月) | Ethereumのmempoolを暗黒森林に喩え、Web3で広く定着した比喩になった |
| Bitcoin Words「Bitcoin Mining's Three Body Problem」 | マイニング産業を「三体問題」の比喩で分析 |
これらは「暗黒森林」や「三体問題」という概念を比喩として借りたものです。Satoshi Appの寓話は、序章の文章そのものを転用し、しかもアプリの白書として実装している点で性質が異なります。
8. Bitcoin黎明期との「符合」をどう読むか
寓話を読むと、Bitcoinの歴史との重なりが多く見つかります。ただし、重なりは探せば見つかるものでもあります。ここでは根拠の強さで分けます。
| 符合 | 確認できること | 評価 |
|---|---|---|
| Satoshiの消失と「立ち去る巨大な存在」 | Satoshiは2010年末に公の投稿を止め、2011年頃に開発者へ「他のことに移った」と伝えたことが知られている。寓話は作中人物名をSatoshiに置き換えている | 寓話側の意図的な重ね合わせと読める(解釈) |
| 「白書」という名の寓話 | アプリ内の白書が小説の一節に基づいている。Bitcoin白書の公開も『黒暗森林』の刊行も2008年 | 名称の一致は事実。意図は未確認 |
| ジェネシスアドレスと半減期モデル | 白書の末尾にジェネシスアドレスが表示され、カード配布がBTCの半減期をモデルにしている | Bitcoinの創世を参照する設計と読める(解釈) |
| Antminerの "Ant" と寓話の蟻 | Antminerは2013年前後に登場。語の一致は事実だが、「蟻」は小さな存在の一般的な比喩でもある | 未検証。『三体』由来とする証拠はない |
| Satoshiが『三体』を読んでいた可能性 | 英訳は2014〜2015年。Satoshiが『三体』に触れた投稿やメールは確認されていない | 根拠なし |
| Witnessなど「Bitcoin語彙との一致」 | SegWitのwitnessは署名データを指す技術用語で、寓話の「目撃者」とは意味が異なる | 偶然の可能性が高い |
Bitmainなど特定の企業や人物とSatoshi Appの関係を示す資料は、確認できていません。本稿ではその点を主張しません。
9. Core DAOとの接続(筆者の解釈)
Satoshi Appは、COREのAPPマイニングのためのアプリでした。筆者のガイドの記録では、COREのAPPマイニングは2022年12月12日までで、メインネット稼働後は、オンチェーンの公式Airdropプラットフォームへと役割を変えました。Core DAOは「Satoshi Plus」というコンセンサス設計を掲げ、Bitcoinのハッシュパワーを活用します。
ここから先は筆者の解釈です。「創始者が去った後も、無数の小さな存在がネットワークを静かに支え続ける」という寓話の構図は、Bitcoinの創始者不在の歴史、そしてBitcoinの基盤の上に築かれるチェーンの姿と重ねて読めます。これは読み方の一つであり、寓話の作者がそう意図した証拠はありません。
10. 結論
確認できたのは次の点です。Satoshi Appの白書は『黒暗森林』序章の英訳とほぼ一致する寓話で、作中人物名が差し替えられています。2022年2月8日のFacebook投稿は原典と同じ結びでしたが、同年8月までにはアプリ内白書の結びが「crypto world」の誕生へ書き換えられていました。末尾のジェネシスアドレスを連打するとSatoshi Cardが得られました。Bitcoin・Web3と『三体』を結ぶ試み自体は2018〜2020年に先例があります。
確認できていないのは次の点です。運営が借用を認めた公式説明、白書の結びがいつ・誰によって書き換えられたのかという詳細、2010年代前半のBitcoinコミュニティに『三体』の文脈が存在したか、Antminerや2008年同年説などの因果関係です。
「符合」は面白い読み物になりますが、面白さは根拠の強さを意味しません。本稿は、原文対照と白書の実装という確認できた核と、仮説にとどまる周辺を分けて残すことを目的にしました。
あとがき:なぜこの符合にこだわるのか
ここまでは「確認できたこと」と「仮説」を分けて記録してきました。最後に、筆者がなぜこの話にここまでこだわっているのかを記しておきます。ここから先は検証ではなく、筆者の所感です。
一つは、寓話の内容があまりにもSatoshi Nakamoto本人と、Bitcoin黎明期の空気を彷彿とさせたことです。創始者が静かに現れ、静かに去り、その後を無数の小さな存在が黙々と支え続ける。この筋立ては、Satoshiが2010年末に姿を消して以降のBitcoinコミュニティの歴史と、驚くほど重なって見えました。
もう一つは、2022年当時から、このアプリ全体にどこか「中国の香り」を感じていたことです。中国国内向けとグローバル向けの2系統のアプリ、2種類のリファラルリンク、簡体字が飛び交う数千人規模のTelegramコミュニティ。こうした観察の延長線上に、劉慈欣という中国のSF作家の代表作が寓話の原典だったという事実が見つかったことは、筆者にとって偶然とは思えませんでした。
開発側に、中国のSF小説を読み込んでいる層が存在していたらしいこと自体が、筆者にとっては「中国の香り」という当時の印象を裏づける一つの傍証です。ただし、これは証拠ではなく印象の補強に過ぎません。寓話の出典という一点を除けば、開発チームの実像について、本稿は何も明らかにしていません。
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情報提供のお願い
次のような資料をお持ちの方は、X(@Okusuri2020)までお知らせください。
- Satoshi App内の白書の全文(各言語UI)のスクリーンショットや、実装時期・改訂時期のわかる資料
- 2022年当時のFacebook投稿や、寓話に関する運営の説明
- 2010年代前半の中国語圏Bitcoinコミュニティで、『三体』や「暗黒森林」が使われていた例
- 2022年当時のTelegramログなど、コミュニティの記録
よくある質問
Q. 「BTCs」「CORE mining」「Satoshi App」は同じものですか?
BTCs、CORE mining、Satoshi App、Free Airdropは、少なくとも同一系統のモバイル参加・報酬導線で時期ごとに用いられた名称・UI表記です。 ただし、BTCsは初期のアプリ内報酬・参加名称、COREはCore Chainのネイティブ資産、Free AirdropはMainnet後のアプリ機能表示というように、同じ意味の単純な改称ではありません。
Q. Satoshi Appの「白書」には何が書かれていますか?
技術文書ではなく、『三体Ⅱ 黒暗森林』序章とほぼ一致する寓話です。蟻と蜘蛛と巨大な存在が登場し、作中人物名がSatoshi Nakamotoに差し替えられています。
Q. 白書の最終行の下にある文字列は何ですか?
一般に「Bitcoinのジェネシスアドレス」として知られる文字列です。厳密には、ジェネシスブロックのcoinbase報酬出力(P2PK形式)の公開鍵から導出したアドレス形式の表記です。
Q. Facebook版と白書版はどこが違いますか?
確認できた違いは結びです。2022年2月8日のFacebook版は原典と同じ「宇宙文明の公理の誕生」で終わり、同年8月までに確認されたアプリ内白書版は「crypto world」の誕生に書き換えられています。書き換えがその間のいつ行われたか、白書が当初から別の結びだった可能性までは確認できていません。
Q. Satoshi Appの寓話は『三体』の盗用ですか?
序章の英訳とほぼ一致することは確認できますが、「盗用」かどうかの法的評価は本稿では行いません。運営が借用を認めた公式説明も、現時点では確認できていません。
Q. サトシ・ナカモトは『三体』を読んでいたのですか?
確認できる資料はありません。Satoshiの投稿やメールに『三体』への言及は知られておらず、本稿では仮説としても採用していません。
Q. Antminerの「Ant」は『三体』に由来しますか?
未検証です。蟻は小さな存在の一般的な比喩であり、『三体』を参照した証拠は見つかっていません。
参考文献
- 劉慈欣『三体Ⅱ 黒暗森林』(2008年)
- Liu Cixin, The Dark Forest, translated by Joel Martinsen, Tor Books, 2015
- Satoshi Nakamoto, "Bitcoin: A Peer-to-Peer Electronic Cash System", 2008 — bitcoin.org/bitcoin.pdf
- Blockchain.com Explorer, Bitcoinアドレス 1A1zP1eP5QGefi2DMPTfTL5SLmv7DivfNa — blockchain.com
- Kraken Blog, ジェネシスブロック関連記事 — blog.kraken.com
- Dan Robinson and Georgios Konstantopoulos, "Ethereum is a Dark Forest", Paradigm, 2020 — paradigm.xyz
- "Bitcoin Mining's Three Body Problem", Bitcoin Words — bitcoinwords.github.io
- TechNode, 2018年3月19日, Bitmain AIチップ関連記事 — technode.com
- 筆者作成「SatoshiAPP (旧COREマイニング) ガイド」(BTCs=CORE / Bitcoin3.0)、「Satoshi Cardの入手方法」「ハッシュカードの交換」の項 — sites.google.com
- 筆者による、BTCs期〜CORE mining期〜Free Airdrop期のアプリ内UI・招待ページ・Testnet接続設定の記録(画面ロゴ、ティッカー表記、招待ドメイン、技術ドメイン、カード/ノード名の変遷)
- Facebookアカウント「Btcs Mining Satoshi」の2022年2月8日の投稿(筆者アーカイブ)
- 筆者が2022年8月頃に保存した、Satoshi Appアプリ内白書のスクリーンショット(ファイル名の日付に基づく)
本記事は文学的出典と語彙の分析であり、特定のアプリ、トークン、プロジェクトへの参加や購入を勧誘するものではありません。記載内容は2026年9月30日時点の筆者の調査に基づき、一部は筆者の観察・解釈を含みます。暗号資産は価格変動などのリスクを伴います。最終的な判断はご自身の責任でお願いします。
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